NARUTO・80話「限界を超えて…」
ヒナタ:「…ま……まっすぐ…自分の……言葉は曲げない…私も…それが忍道だから…!」
ネジに点穴を突かれて、本来の柔拳の威力が出せないヒナタ。
口から血が流れたまま、立ち上がります。
階上にいるナルトに視線を向けます。
ヒナタの表情には力強さが感じられます。
ボロボロになりながら立ち上がるヒナタを、ナルトは驚きと畏敬の念が混ざった表情で見つめています。
ナルト:「………ヒナタってば… あんなにすごい奴だったなんて…」
リー:「君に 良く似てます…」
サクラ:「そういえばあの子…いつもアンタを見てたもんね」
ナルト:「え?」
ネジ:「来い…」
ヒナタ:「ガハッ」
また口から血を吐いたヒナタ。ネジの柔拳がかなり効いています。
紅は、ヒナタがこれ以上攻撃をくらえば危険だと気がかりです。
ヒナタが柔拳を使えなくなった今、勝負は見えたとカカシ。
(カカシ):……………しかしまぁ これほどの奴がいたとは… はっきり言ってウチのサスケでも まるで相手にならないぞ こりゃ…
我愛羅は強敵の出現に、闘争心がうずき出しています。
棄権しないヒナタに、ネジは怒りの眼差しを向けます。
いの:「……………す…凄い目ねーーーーー… ヒナタ…殺されないよね…まさか…」
サクラ:「…なんかさァ あの人の強さって…反則って感じよね…! …強すぎ…マジで…」
ナルトは我慢ができません。
ナルト:「ぐ…くく… ヒナター ガンバレーーー!!」
(ヒナタ):…ナルトくん…!!
(ネジ):また目に力が戻った…
ヒナタがネジに突進していきます。
ネジを攻撃するヒナタ。もう自分の柔拳は効かないとわかっているのに、ネジに拳を打っていきます。
(ヒナタ):…私はずっと見てきた… 何年間もずっとアナタを見てきた!! 何でかな………
幼い頃ナルトがイタズラをして「だがオレはできる!! オレはすごい!!」と言っていたこと。(1話) 志願書を提出した301教室で「てめーらにゃあ負けねーぞ!!」と叫んだこと。(39話)
ヒナタの脳裏に蘇るナルトの姿。
(ヒナタ):何でか分からないけど…ナルトくんを見てると……………だんだん勇気がわいてくる 私でも頑張れば………出来そうな気がしてくる……… 自分にも価値があるんだと………そう思えてくる!!
ドカッ
ヒナタ:「ぐっ」
ネジの攻撃が決まった。
血を吐いて咳き込むヒナタ。ふらつきますが、踏ん張って倒れません。
紅はヒナタの変化に気づいています。
(紅):…いつもあきらめグセがついていたアナタが いつしか変わろうとしはじめた…………死にもの狂いで修業をしてきたのは私が一番良く知ってる でも…いつも任務では失敗ばかり…本番に弱くて…落ち込みやすくて…けど今日のヒナタは違う…………あの子のあんな… ………あんな目は………初めて見る…!
(ヒナタ):…………ナルトくん…!!………今まではずっと私が見てるだけだった…でも今はやっと…やっと私を…
ヒナタが攻撃に出ます。
ドス
ネジの攻撃がヒナタの心臓を突いた。
ヒナタ:「ガハッ」
血を吐いて倒れるヒナタ。
ネジ:「アナタも分からない人だ………最初からアナタの攻撃など効いていない…」
(紅):ヒナタ…もういい…試合は負けたけど アナタは昔とは違う…良くやったよ…
ナルトは倒れたヒナタを見つめています。
「………そんな自分を変えたくて自分から……」(78話)と、ヒナタが言った言葉が頭の中を巡ります。
心臓を狙ったネジの決定打です。もうヒナタは立てないとガイは言います。
ハヤテ:「これ以上の試合は不可能とみなし…」
ナルト:「…止めるな!!」
サクラ:「何言ってんのよ バカ! もう限界よ 気絶してんのよ!!」
その時、全員が息を呑みます。
ゆっくりと、ヒナタが立ち上がりました。
信じられない表情のネジ。
ネジ:「…何故立ってくる…無理をすれば本当に死ぬぞ……」
(ヒナタ):…やっと私を見てくれてる……憧れの人の目の前で…
(ネジ):何故…!?
(ヒナタ):………格好悪いところは…見せられないもの……!!
ヒナタ:「ま…まだまだ…」
「強がっても無駄だ、立っているのがやっとはず」とネジは言います。
ネジ:「………アナタは生まれながらに日向宗家という宿命を背負った… 力の無い自分を呪い責め続けた………けれど人は変わることなど出来ない…これが運命だ もう苦しむ必要は無い…楽になれ!」
ヒナタ:「…………それは違うわ…ネジ兄さん… だって…私には見えるもの…私なんかよりずっと…宗家と分家という運命の中で…迷い苦しんでるのはあなたの方…」
それを聞いたネジの表情が変わります。
気配を察知するハヤテ。
ネジがヒナタに猛然と突っ込んでいきます。
ハヤテ:「ネジくん…もう試合は終了です!!」
ガ シ
ハヤテ、カカシ、紅、ガイが、ネジを押さえました。
ガイ:「ネジ いい加減にしろ…! 宗家とのことでもめるなと 私と熱い約束をしたはずだ…!」
ネジ:「………なんで他の上忍たちまで出しゃばる… 宗家は特別扱いか…」
ヒナタが血を吐いて倒れます。
階上にいたナルト、サクラ、リーも、ヒナタに駆け寄ります。
ナルト:「ヒナタ!! 大丈夫かオイ!?」
サクラ:「やばいわよ…この顔色………!」
意識が遠くなっていくヒナタ。
(ヒナタ):………ナルトくん……… …私…少しは………変われたかなぁ…
ネジがナルトに声を掛けます。
ネジ:「おい…そこの落ちこぼれ お前に二つほど注意しておく…… 忍びなら見苦しい他人の応援などやめろ! そしてもう一つ…… しょせん落ちこぼれは落ちこぼれだ…変われなどしない!」
ナルト:「……!」
ネジを睨みつけるナルト。
ヒナタは自分と同じように周囲から認めてもらえないナルトに、自分を重ね合わせて見ています。そしてナルトが周りの冷たい目をはねのけて結果を出していく姿に、光明を見いだしています。
ナルトのなりふり構わずに頑張る姿は、ヒナタに希望と勇気を与えています。
彼女はそれだけを支えに、幼い頃から頑張ってきたと言っても、過言ではありません。
ヒナタはネジに点穴を突かれて、柔拳が効かないことはわかっています。
それでもネジに立ち向かうヒナタには、既に予選を突破するということは眼中にありません。
彼女にとっての勝利とは、試合に勝つことではなく、自分に勝つことです。
だから何度でも立ち上がれる。
敵はネジではなく、自分自身のあきらめ癖と弱さです。
ネジは「変われない」と言いますが、現実にヒナタの目の前には、努力で変わってきたナルトがいます。この事実は彼女にとって、とてつもなく大きい。
ネジが何を言おうと、ヒナタの心は揺らぎません。
ネジは試合には勝ちましたが、ヒナタの心を折ることはできませんでした。
ネジは真の勝負に負けています。しかし彼はそのことに気がついていません。
ヒナタVSネジ戦を見ていると、つまらないプライドにしがみつくことの愚かさや、格好をつけずに、ひたむきに努力することの尊さを教えられて、私も頑張ろうと思えるのです。
ただしネジの苦しみは、単に彼のプライドの高さだけではなく、もっと根が深いです。ヒナタの悩みとは違っていても、彼女と同じくらい心に重荷を抱えています。なまじ優秀なだけに、その深い闇を本当に理解できる人は、あまりいないと思います。実はヒナタが一番の理解者なのかもしれません。
(80話は、コミック巻ノ9に収録されています)
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