NARUTO・78話「ネジとヒナタ」
ナルトがヒナタからもらった薬を、傷口に塗っています。
どんどん傷が癒えるのを見て、「よく効く」と満足げなナルトです。
「そんな勢いで傷が治るのはお前だけだ」と、カカシは九尾の力に驚いています。
担架で運ばれていくキバに、ヒナタは同じ薬を差し出します。
キバは「そんなことより自分の心配をしろ」と言います。
残るのは、ヒナタ、チョウジ、ネジ、リー、我愛羅、ドスの6人です。
キバ:「いいかヒナタ… ………砂のヤローと当たった時は…すぐ棄権しろ! それからもう一人…ネジと当たった時も同じだ すぐ棄権しろ…! あいつはお前には酷だ… ボロボロにされるぞ…」
ハヤテが次に試合の発表をします。
ヒュウガ・ヒナタ VS ヒュウガ・ネジ
キバ:「チィ…」
思わず舌打ちするキバ。
(紅):ヒナタ…
(三代目):何とも面白い対戦になったもんじゃ…
ハヤテの前に、ヒナタとネジが集まります。
ネジ:「まさかアナタとやり合うことになるとはね… ………ヒナタ様」
ヒナタ:「………… …ネジ兄さん…」
ナルト:「え!? ……兄妹か!?」
カカシ:「……………あいつらは木ノ葉で最も古く優秀な血の流れをくむ名門…日向一族の家系だ だが兄妹じゃないよ…」
サクラがどういう関係か尋ねます。
カカシ:「ん…… ま 日向家の”宗家”と”分家”の関係…って言やいいのかなァ」
ここからはリーが説明します。
ヒナタは日向家の宗家(本家)に当たる人で、ネジはその流れを汲む分家の人間。
ただ宗家と分家の間には、昔から色々あるらしく、今はあまり仲の良い関係では無い。
ナルトが何故なのか尋ねます。
リー:「………ボクも詳しくは知りません ただ…昔ながらの古い家にはよくある話らしいんですが 日向家の初代が家と血を守っていくために 色々と宗家が有利になる条件を掟で決めていて…分家の人間は肩身の狭い思いをしてきたらしいんです…」
サクラ:「じゃあ 因縁対決ってやつだ…」
ハヤテが試合開始を宣言します。
ネジ:「試合をやり合う前に一つ…ヒナタ様に忠告しておく…」
ヒナタ:「……?」
ネジ:「アナタは忍には向いていない… 棄権しろ!」
ヒナタ:「…!」
ネジ:「………あなたは優しすぎる 調和を好み葛藤を避け……他人の考えに合わせることに抵抗がない」
ヒナタ:「………」
ネジ:「そして自分に自信が無い…いつも劣等感を感じている…だから… …………下忍のままでいいと思っていた… しかし中忍試験は3人でなければ登録出来ない…同チームのキバたちの誘いを断れず…この試験を嫌々受験しているのが事実だ 違うか……?」
ヒナタ:「…ち…違う…違うよ………私はただ…………そんな自分を変えたくて自分から……」
ヒナタを言葉を聞いた紅は、ヒナタの父と会話したときのことを思い出します。
ヒナタの父が、妹のハナビに修業をつけている時。
紅:「ヒナタはこれから私の下につきます…ですが本当によろしいのですか…? ヒナタは日向宗家の跡目のはず…下忍としての任務は常に死がついて回ります」
ヒナタの父は、「5つ下のハナビにすら劣る出来損ないは、この日向には要らない」と言います。
それを立ち聞きしていたヒナタ。
ネジ:「ヒナタ様…アナタはやっぱり宗家の甘ちゃんだ」
ヒナタ:「え?」
ネジ:「人は決して変わることなど出来ない! 落ちこぼれは落ちこぼれだ…その性格も力も変わりはしない」
(ナルト):あいつ…
ネジ:「人は変わりようがないからこそ差が生れ…エリートや落ちこぼれなどといった表現が生れる…誰でも…顔や頭…能力や体型 性格の善し悪しで価値を判断し判断される 変えようのない要素によって 人は差別し差別され 分相応にその中で苦しみ生きる オレが分家で…アナタが宗家の人間であることは変えようがないようにね…」
ナルトのイライラが募っていきます。
ネジは白眼であらゆるものを見通してきた自分にはわかると言います。
ヒナタは強がっているだけで、本心ではすぐにこの場から逃げ去りたいと考えていると言い切ります。
ヒナタ:「ち…違う…私はホントに…」
サクラが白眼について、カカシに尋ねます。
カカシ:「うちは一族も元をたどれば 日向一族にその源流があると言われている 『白眼』ってのは日向家の受け継いできた血継限界の一つで 写輪眼に似た瞳術だが…洞察眼の能力だけなら…写輪眼をもしのぐ代物(しろもの)だ」
ネジは白眼を発動して、ヒナタを恐ろしい目で睨みつけます。
思わず視線をそらすヒナタ。
ネジは「オレの目はごまかせない」と言います。
ヒナタのわずかな視線の動きや所作の一つ一つを分析して、ヒナタの深層心理を説明し、精神的にヒナタを追い詰めていくネジ。
闘いは既に始まっています。
ヒナタは呼吸が荒くなり、目に涙が浮かんでいます。
その様子を見て、ナルトは歯ぎしりが止まりません。
ネジ:「つまり…アナタ…本当は気付いてるんじゃないのか…”自分を変えるなんてこと絶対に出来…”」
ナルト:「出来る!!!」
ヒナタ:「!!」
ナルト:「人のこと勝手に決めつけんなバーーーーカ!!! ンな奴 やってやれヒナタ!!」
(ヒナタ):………ナルトくん…
78話からは日向一族の能力と、日向家の裏事情が明らかになっていきます。
ネジもヒナタもまだ12、3歳の子供ですが、それぞれに苦しみを抱えています。
一見すると、ヒナタはシャイで恥ずかしがり屋な子で、ネジは自分の実力に自信をもっている優秀な子だという、それだけに見えます。
しかし人は見た目だけでは判断できません。二人には幼い頃からずっと抱えてきた、暗い負の部分があります。そしてそれは周りが思う以上に、彼等の中に深く根を下ろしています。
78話で提示されている問題は非常に大きいので、これだけでもかなり思考が広がって、1回のエントリではとても書き切れないです。
ネジが、生まれ落ちた環境で人の一生が左右されると言っているのは、あながち間違いではありません。
現実社会でも、裕福な家庭に生れたかそうでないか、経済的には裕福でも不仲な両親の元に生れたかそうでないか、数え上げたら切りが無いほど、家庭環境の条件には無数の組み合わせがあります。
どの環境に生れたかで、周囲から与えられるものが違ってきます。
それは子供にはどうすることもできない、動かしがたい事実です。
しかし同じ環境に生れた兄弟姉妹が、全く同じ人生を歩むかといえば、そうではありません。
これは非常に重要なことです。
同じ環境に育ったはずなのに、なぜ兄弟姉妹で人生が変わるのか。
それは環境が全てを支配するわけではなく、受け取る側の問題だからです。
根本的にネジもヒナタも、今の自分が置かれている状況を良しとしていません。
特にネジは優秀と見なされているだけに、彼の抱えている問題は周囲からは見えにくい傾向があります。
78話の二人の会話を眺めているとわかりますが、ネジはヒナタ個人が嫌いなわけではありません。
彼が憎み、嫌悪しているものは、もっと大きな漠然とした自分の運命、環境、処遇といったものです。
彼はそのやり場のない憤りを、シンボライズされた「宗家のヒナタ」という対象にぶつけているだけです。
乱暴な言い方をすると、宗家の人間をぐうの音も出ないほどやり込めれば、少しは溜飲が下がるということです。
一方のヒナタは、本来ならば宗家の跡目として扱われるべき存在なのに、父親からは諦められて、妹の方に親は力を注いでいます。
人と争うことを好まない性格のヒナタは、本当は忍に向かないのかも知れません。
しかし宗家に生れたために、ダメ人間の烙印を押された格好になっています。
それによって劣等感を抱き、日頃の親の言動が、さらにヒナタを自信の無い子にしてしまっています。
ナルトは家庭すらない環境に生れています。
赤ん坊の頃に両親は死んで、孤児として育ちました。両親のことは何も知りません。
おまけに九尾の妖狐という化け物まで封印されています。そのために里の大人達からは忌み嫌われて、友達もいませんでした。
アカデミーでイルカ先生に認めてもらうまでは、毎日絶対的な孤独の中にいました。
ナルト自身にはどうすることもできない現実です。
しかしナルトは成績がドベでも、大人やアカデミーの同級生達から馬鹿にされても、自分の目標や夢を諦めませんでした。
努力を続けてきた結果、イルカ先生に認められて卒業ができました。
1話の雑考に書いたように、この体験がナルトの行動原理になっています。
「人との繋がりを失いたくない」という気持ちと、「努力すれば、変えられるものがある」という体験です。
ナルトは同じ境遇や、同じ苦しみを持った人間の感情に、強く共感してしまいます。
それがナルトの優しさであり、強みでもあります。
人は「自分の苦しみは誰にも分かってもらえない」とか、「分かるはずがない」と思いがちです。
その時に上辺だけ取り繕うのでは無く、心から共感して理解してくれる人物が現われたら、それだけで救われた気持ちになるものです。
イルカが1話で「あいつは もう人の心の苦しみを知っている」と言ったように、ナルトは生れたときから過酷な環境にいたので、相手の感情の動きに敏感なところがあります。
”波の国任務”でサスケが白に殺されて(本当は仮死状態にされただけでしたが)、ナルトの怒りで封印が緩み九尾のチャクラが漏れて、ナルトは初めて九尾の力を引き出しました
白に止めを刺そうとしたところで、白が抱えていた「誰からも必要とされない悲しみや苦しみ」を知り、サスケを殺された怒りはどこかへ行って、白に共感してしまいます。(29話)
初めて仲間を失った怒りや悲しみよりも、相手の孤独や苦しみに共感してしまうのがナルトです。
ナルトが憎しみや復讐という闇に落ちないでいられるのは、このためでしょう。
そして、こういうナルトだからこそ、彼の「わかるってばよ」は、相手の心の琴線に触れるのです。
ナルトは自分の体験から、ネジに「決めつけるな」と反論しています。
環境で人生が左右されることと、支配されることは別の話です。
環境によって人は作られるのは確かですが、環境が肥やしになるか、毒になるかは本人次第です。
変えられる環境もあれば、変えられない環境もある。
ナルトが九尾を封印されていない自分になることはできないし、ヒナタもネジも日向以外の一族に生まれ直すことはできません。
努力で変えられるものは変える、変えられないものは諦めて、それを肥やしにして自分の栄養にする、それしか解決策はないと思います。
(78話は、コミック巻ノ9に収録されています)
NARUTO―ナルト― モノクロ版 9 (ジャンプコミックスDIGITAL)
- 作者: 岸本斉史
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