抹茶みるく日記

感想や日々の雑考のブログです。感想は作品の評価より、自分の思考を深め、得るものがあるかどうかを重視しています。

NARUTO・日向ネジ1

「運命は決まっており、それは変えることが出来ない」と思い込んでいる、典型的な人物としてネジは登場します。

 

中忍選抜試験の第三の試験出場をかけた予選で、ヒナタと対戦することになったネジは、自分の奥深くに溜め込んでいた思いをヒナタにぶつけます。

 

ネジの心の底に渦巻いているのは、古い家柄ゆえの掟や習慣に縛られる、理不尽さに対する憤りです。
それがネジの心に闇を作っています。

 

ヒナタの悩みも、発端は日向家のしきたりですが、課題は自分の劣等感やあきらめ癖の克服です。
ネジの場合は、自分が生活している場の仕組みそのものが、大きな問題になっています。根本的な解決策は仕組みを変えることですが、一個人の力では到底無理な話です。

 

のちのエピソードで出てきますが、宗家と分家の間に存在するしきたりや、宗家の血を守る為に分家の父親が身代わりになったことは、ネジにとって理不尽極まりないことばかりです。
さらに状況をややこしくしているのは、ネジ自身の高い能力です。
もしネジが並みの忍だったら、「分家だから仕方ない」と思えたかもしれません。

 

三代目の台詞にあったように、ネジは「日向家始まって以来の天才」です。(79話

 

おそらくネジは、幼い頃から図抜けた能力を見せて、一族の中でも一目置かれていたと思います。その周囲の視線を、本人は感じていたはずですし、プライドも持っていたと思います。

 

しかし分家の子であるネジは、高い能力があっても日向家の頂点には立てません。
日向家の白眼と血統を守る為に作られた掟があり、宗家以外の人々は、自由な行動が制限されています。

 

父親を宗家に殺されたと思っているネジは、宗家を見返してやりたいと思って、ますます自分の能力に磨きをかけていったに違いありません。
しかも宗家の長子はヒナタです。
ヒナタがネジを凌ぐ実力者であれば、彼は悔しくても自分を納得させたかもしれません。

 

実力では自分よりも劣るのに、なぜ分家が宗家のために犠牲にならないといけないのか。
どうしてそのために、父親が死ななければならなかったのか。
疑問と憤りが、ずっとずっとネジの中に澱(おり)のように沈殿していったのは、容易に想像できます。

 

「分家の子」だからという理由で、自分の人生に制限がかけられるのは、才能があるネジには辛いはずです。

 

理不尽な環境において、今のネジができる抵抗手段は、己の実力を皆に知らしめることです。
実力がある者とない者の差を見せつけること。そしてそこには、決して越えられない壁があることを思い知らせる。
自分が「宗家」の人間になれないのと同じように、「落ちこぼれ」が「天才」になれないと示すことで、己が抱えている憤りを他人にぶつけています。
その格好のターゲットが、ヒナタやナルトです。

 

このネジの行為は、心理学でいう「投影」に当たります。「投影」は精神分析学で「防衛機制」の1つにあげられます。

 

防衛機制とは、「不安や抑うつ、罪悪感、恥などのような不快な感情の体験を、弱めたり、避けることによって、心理的な安定を保つために用いられるさまざまな心理的作用」のことです。
自分にとって苦痛な感情を引き起こすような、受け入れがたい観念や感情を受け流すために、無意識的にとる心理過程の総称です。

 

「投影」の他に、防衛機制の一つで「合理化」というのがあります。
たとえばイソップ物語に出てくる「酸っぱいブドウ」です。ブドウが欲しくて飛びついたキツネが、飛び上がる能力が足らずに届かなかったことを認めるのがいやで、「あのブドウは酸っぱいから、本当は欲しくなかったんだ」と言い訳をするという話です。
これは「合理化」の例として有名です。

 

「投影」は英語で“projection”と言い、自分にとって受け入れがたい感情、衝動、観念を自分のモノではなく、他人のモノだと見なして、自分は安心感を得るというものです。
ネジの場合はこちらでしょう。
「宗家と分家」を「エリートと落ちこぼれ」に言い換えて、相手に投影しています。

 

ネジはまだ13歳くらいの子供です。自分の中に溜まっている澱を、どう処理していいのか分からず、もがいています。ネジが「この世で自分ほど不幸な人間はいない」と思っている間は、たぶん何も変わらないでしょう。

 

表からは見えない悩みや苦しみを、誰もが抱えていることを知れば、別の見方が生まれるはずです。
78話の雑考に書いたように、環境が原因の100%ではなく、受け取る側の問題だからです。
事実は一つでも、受け取る側によって、事実が持つ意味は変わるのです。

 

しかしネジは「天才」と目されるほどの実力を持ち、高いプライドを持っています。
そのプライドが災いして他人を見下し、その人の隠れた苦しみや悲しみに、心から共感することができません。
その結果、ますます自分の闇の中に閉じこもり、堂々巡りをしています。
これが中忍選抜試験の頃の、ネジの状態だと思います。