NARUTO・29話「大切な人…!!」
氷の鏡が全て崩壊し、水煙の中に佇む白。
面が割れて落ちています。
視線は空を見つめたままです。
白の心の中にあるのは再不斬のこと。
ナルトは正面から攻撃を仕掛けますが、白は全く避けようとしません。
まるでナルトが視界に入っていないかのようです。
拳を振うナルトですが、白の顔を見て動きが止まります。
ナルト:「お… お前は…あン時の…!! ……………」
九尾のチャクラで我を忘れたかのようなナルトでしたが、まだ己を失ってはいなかったようです。
白はなぜ止めるのかと、ナルトを問い詰めます。
白:「君は 大切な仲間をボクに殺されておいて… ボクを殺せないんですか」
ナルトの脳裏に、サスケの姿が浮かびます。
白を殴りつけるナルト。
白はさっきまでの勢いはどうしたのか、それでは自分を殺せないと言います。
ナルトは森の中でのことを思い返しています。
命だけは見逃そうと、敵に情けをかけるのは勘違いだと言う白。
白はナルトに殺されたがっているようです。
なぜだろう。
白はナルトに、夢もなく誰からも必要とされずに、ただ生きることの苦しみを知っているかと問います。
ナルトは白の真意が掴めません。
白は微笑みながら言います。
白:「再不斬さんにとって弱い忍は必要ない… 君は ボクの存在理由を奪ってしまった」
ナルトは白が言っていた「大切な人」とは、再不斬のことだと悟ります。
ナルト:「何で あんな奴のために… 悪人から金もらって悪いことしてる奴じゃねーか!!」
再不斬以外に大切な人はいないのかと、ナルトは白に問います。
白は昔はいた、両親だったと答えます。
ここから白の生い立ちが語られます。
白の故郷は、霧の国の雪深い小さな村。
絶え間ない内戦を経験した霧の国では、血継限界を持つ人間は忌み嫌われていました。
理由は、その特異な能力が争いに利用されたので、国に災厄と戦火をもたらすと見なされたからです。
血継限界を持つと分かれば殺されたので、血族は自分の血を秘密にして暮らしていました。
白の母親が血族であることが父親にバレて、父親が妻を殺し、そして我が子の白を殺そうとしたのです。
気がついたとき、白は実の父親を殺していました。
想像を絶する悲惨な出来事です。
白:「そして その時 ボクは自分のことをこう思った… いや…そう思わざるを得なかった そして それが一番辛いことだと知った……」
ナルトは一番辛いこととは何か尋ねます。
白;「自分が この世にまるで… 必要とされない存在だということです」
衝撃が走るナルト。
自分と全く同じ。
白は、もしナルトを心から認めてくれる人が現われた時、その人はナルトにとって最も大切な人になるはずだと言います。
ナルトはイルカ先生の顔を思い浮かべます。
白にとっては、それが再不斬でした。
誰もが嫌った血継限界の血族である自分を必要としてくれたのが、とても嬉しかったのです。
再不斬は何か理由があって国を捨て、いつか霧の国に帰って国を手中に収めようとしているようです。そのために白の力が欲しかったのでしょう。
再不斬が自分を武器だと思っていることを知っていても、側に置いて欲しいと白は頼んでいます。
白はナルトに敗北し、再不斬の武器として役目を果たせませんでした。
心の中で再不斬に詫びる白。
白は自分を殺すように、ナルトに頼みます。
一方霧の中で戦うカカシと再不斬。
濃霧で視界を遮られ、再不斬の動きが掴めないカカシ。
カカシ:「忍法口寄せ! 土遁追牙(どとんついが)の術!!」
再不斬の足元から数匹の犬が飛び出します。
目が利かないなら鼻で追う。
カカシは追尾専用の口寄せ術で、忍犬を口寄せして再不斬を捉えます。
カカシが血を流して再不斬の攻撃を受け止めたのも、そのための伏線でした。
カカシの血がついた再不斬の武器が、忍犬達のターゲットになったのです。
カカシ:「お前の未来は死だ」
カカシが王手をかけます!
再不斬の技を見切って仕込みをしていたカカシは、やはり明晰な頭脳の持ち主です。
「忍者は裏の裏を読め」とナルト達に教えるだけのことはあります。
さすがはカカシ先生だってばよ。
29話のポイントは2つあります。
一つは、白が再不斬に従っている理由です。
我愛羅が言った言葉がここでも通用します。
我愛羅:「いや… たとえそれが”悪”だと分かっていても 人は孤独には勝てない」
(217話・コミック巻ノ24)
この意味は重い。この台詞はオブラードのように、NARUTOの物語全体を包んでいるように思えます。
人は孤独では生きられない、
繋がりを求める生き物だということ。
問題はその繋がり方で、白や君麻呂のように自分を必要としてくれる人であれば、道徳的な善悪は飛び越えて、相手に従ってしまうということです。
それは責められないと思います。
道徳的や倫理的な判断基準で相手を選べるのは、絶対的な孤独にいないからでしょう。
217話でリーが我愛羅に、悪人を大切な人と思うなんて信じられないと言ったのは、こういうことだと思います。
リーは本当の闇を知らない。我愛羅は本当の闇を知っている。この違いです。
もう一つは、九尾のチャクラが漏れ出して別人のようになったナルトが、白の顔を見て攻撃を止めたことです。
あの状態になっても己を失っていなかったのは、「九尾を封印した」その封印自体に何か秘密がありそうな感じがします。
それだけではなく、ナルトが白の境遇を知って共感したことも攻撃を止めた要因です。
白に対してあれだけ怒りと憎悪をたぎらせたのに、同じ苦しみを持つ者だと知ると、その怒りと憎しみはどこかへ行ってしまっています。
1話でイルカがミズキに言った通り、ナルトは人の心の苦しみを知っています。
自分の怒りよりも、相手の苦しみや悲しみに共感してしまうのがナルトなのです。
ナルトはこの性質のおかげで、憎しみに囚われても闇落ちせずにいられたのではないかと思います。
(29話は、コミック巻ノ4に収録されています)
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